先日の雪が、日陰では融け残っている田舎道をドライブして、いつものダムに行きました。
もう一つの湖コースには、梅園があって、今の時期は梅が見頃になっています。
本当は、そちらへ行くのが普通の人の考えですが、私は梅が散るまでは行かないでおこうと思っています。
人ごみが嫌いだからです。ヒロくんと一緒に人ごみを歩く度胸がないからです。
最近のヒロくんは普通に歩いてくれるし、首も治ったし、多分もう「
おかしな人」には見えないと思うのですが、私の心が過剰な心配をするので、お出かけは私自身がが楽に行ける場所を選びます。
「自分が楽である事」は介護をするに当たって、一番重要なことかもしれないと思うようになりました。
「自分の事は二の次で、
夫を楽しませる事が一番」と考えていた日は、いつの間にか遠くなってしまいました。
ダムドライブから戻ると、ヒロくんが言いました。
だいえー、いこう。わー、凄い!私は、心の中で感動しました。
ヒロくんの脳は、ダイエーさんに買い物に行く、と言う行為を覚えていたのです。
最後に、ダイエーさんに行ったのは、いったいいつだっただろうか?
毎日の様に、「だいえー、だいえー」と言って、買い物を楽しんでいた日が過ぎ去り、それでも、「だいえー」と言うので、ただ、行くだけが目的となり、そんな日々も過ぎ去り、とうとうヒロくんの口から、「だいえー」と言う言葉が聞かれなくなったのは、いつ頃だっただろう?
昨年の大嵐に翻弄されても、ヒロくんの頭の中から「だいえー」が消えてなくならなかった事に、私は大きな喜びを感じました。
そして、ドライブから帰って、ほんの10分程しか経っていなかったけど、私は、ダイエーさんに向かって車を走らせる事にしました。
車に乗ると、私はいつも「ベルトしてね。」と言います。
一時は、空しく響いていたその言葉が、最近は再び生きてきました。
ドライブに行く前に、「ベルトしてね。」と言った時、ヒロくんは「どこ?」と聞きました。
「そこ。横の方にあるでしょ。」と教えてあげると、ヒロくんは、自分の手でベルトを引っ張ってきました。
ヒロくんの脳は、「ベルト」と言う単語を思い出して、引っ張り出すと言う指令を出したのです。
流石に、ガチャと、止める事は出来ませんでしたが、この一連の動作に、私は密かに感動していました。
そして、ダイエーさんに行く時に、同じ様に「ベルトしてね。」と言うと、ヒロくんは、「どこ?」と聞くことなく、一人でベルトを引っ張り出したのです。
何と、ヒロくんの脳は、少し前に教えてあげたベルトの位置を覚えていたではありませんか。
ダイエー行くの、久しぶりだね。そうだね。あ~、ヒロくんは、私がどんな思いで、この言葉をしゃべっているのか、きっと何も分っていないんだろうな・・・・ま、いいけど。
駐車場に到着すると、私の
指定席が空いていました。
運転席に座っている私が、ヒロくんのベルトを外してあげると、ヒロくんは、一人で車から降りて、バタンとドアを閉めました。
この当たり前の行為が、私にはまた感動的なドラマの一場面に見えてしまいました。
ドアを開けるには、ドアノブの場所が分って、そこに手をかけて、手前に引いて、引きながらドアを押す、と言う高度な動作をしなくてはならないのです。
そして、ベルトが絡まないようにしないと無事に降り立つ事は出来ません。
そんなにも難しい一連の動作を、ヒロくんの脳はしっかりと思い出して、手足に指令を出す事が出来たのです。
おまけに、降りたらドアを閉める、と言う指令もちゃんと出しているのです。
これが、感動せずに居られますか?
「60歳の夫が、一人で車から降りた」
たったこれだけで感動できる私は、世界一幸せかもしれません。
私は、ヒロくんと腕を組んでダイエーさんの中に入りました。
一瞬で私を見失ってしまうヒロくんを捕まえておくために、腕を組んでいるのですが、年甲斐も無く仲が良い夫婦に見られているかもしれません。
売り場に入ってから、私はちょっと迷いました。
ただ、歩くだけにするか、本当にお買い物をするか?
最後にダイエーに来た頃のヒロくんは、もうとても買い物など出来る状態ではなく、ただ売り場を忙しく歩いて、レジも通らずさっさと帰る、そんな日々だったのです。
でも、今日のヒロくんは、ちょっと戸惑いながらも、しっかりと自分の欲しいものを手に取る事が出来ました。
ちゃんとレジを通って、外に出た私は、再びヒロくんの腕を取って歩きました。
ダイエーで、お父さんと一緒に買い物したの久しぶりだね。そうだね。今ね、凄く幸せなの。そうなの?あ~、やっぱりヒロくんは、私がどれだけ幸せな気分に浸っているか、分ってないんだわ・・・ま、いいけど・・・・・
平和な時間が夜までずっと続きました。
穏やかな表情で座っています。
私が切望した「穏やかに座っていてくれればそれでいい」
それが今、目の前にあります。
CDから「なごり雪」が繰り返し流れている静かな夜のひと時です。
一つ一つの感動が、凄く良くわかる。
当たり前のことの嬉しさ。
本当に良かった。
変わり始めた最初の頃は、
いつ、
また落ち込みの日が来てしまうのではと、
はらはらしながら、読んでいました。
でも、もう大丈夫。
今は、安心して、
次の記事を、楽しみに待っています。
この変化は、なぜだろう。
何かしらがあったはず。
同じところを歩んでいる介護者として、
とても気になります。
ご自分の中で、整理されてからで構わないので、
教えてください。
気長に待ってます。