財布の中を整理していたら、夫の免許証が出てきた。
病の進行と共に、大事なものが管理できなくなって来たので、やむを得ず私の管理下に入ったものだ。
免許証の他には、健康保険証、診察券、銀行のカード、クレジットカードが入っている。
たまには使用することがあるものと違って、免許証は一度も出番が無く、私もその存在を忘れていた。
今日、久しぶりに夫の顔写真が付いた免許証を手にした。
平成17年8月交付。
これが、夫が生涯最後に免許を更新した日付だった。
病を宣告されてから、2年後の事だ。
病気が嘘かもしれないと思っていた頃だ。
笑い話で語れるようになるかもしれないと、本気で思っていた頃だ。
真正面を向いて真面目な顔して映っている夫の顔。
今の私には、直ぐに分かる。
間違いなく、病に冒されている顔だ。
元気だった時の表情とは、もう違っている。
私は、迷わず免許証を捨てた。
入院を機に、断捨離して、とてもすっきりした。
捨てきれない記憶は、私の脳裏に残り、忘れられない想い出は、私の心に焼き付いている。
それだけで充分だ。
心の中の想い出は、自分の都合で引き出してくることが出来る。
だけど、「物」は、私の気持ちなどお構いなしに、楽しかった事だけでなく、辛かった事、苦しかった事までも、一気に蘇らせてしまう。
あの頃の事を、懐かしい記憶として語れる時が来るとしても、それはまだまだ遠い遠い未来のことだろう。
だから、免許証を捨てた。
一つだけ、嘘を書いた。
「迷わず」捨てたのではなくて、
散々「迷って」・・・・・・捨てた。
平成17年の夫に向かって、「ごめんね」と謝って・・・・・・・
捨てた。
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。