「Sさんの所に遊びに行こうか。」
第三回ウンチ事件から一週間ほど経った頃、私はさり気無くヒロくんを誘いました。
遠縁のSさんは、たまたま同じ市内で介護施設を経営しておられます。車で30分ほどの所にあるSホームは、とても立派な建物で、ヒロくんは以前一人でそこを訪れた事があるのです。
多分、自分が認知症ではないかと言う恐れを一人で抱えていた頃、何らかの救いの片鱗でも探そうと思い、私には黙って一人で訪れていたのでした。
優しいSさんの事をヒロくんはとても好きだったので、私は少々心に後ろめたさを感じながらも「遊びに行こう」と誘って、その実はSさんに今の現状をお話して、今回は私自身が何等かの救いの片鱗を探したかったのです。
本当は、私一人が出かけられれば一番良いのですが、この頃のヒロくんを一人でお留守番させておく事にはとても不安があったので、何処へ行くのも一緒、私の傍にはまるで幼子のようにいつもいつもヒロくんがくっついていました。
Sさんは笑顔で私達を迎えてくださいました。
「今日は、見学と言うことで宜しいですか?」「あ・・・はい」と曖昧な返事の私と、ヒロくんを伴ってSさんは施設の中を案内して下さいました。
生まれて始めて足を踏み入れた「シセツ」。
この年まで生きて来ましたが、私は今まで「シセツ」と言う所に縁の無い暮らしをしていたのです。
既に亡くなっているヒロくんの両親も、私の父親も、最後まで自宅(本当の最後は病院でしたが)で家族に見守られながらその生涯を閉じました。
TVなどで「シセツ」が報道される時は、悪い出来事が大半なので、どう頑張っても「シセツ」に好印象を持つことがなくここまでやってきました。
実際、もしSさんと言う存在がなければ、未だに一歩を踏み出せないでいたかもしれません。
いったいどんな所だろうと、ドキドキしながらSさんの後に着いて、シセツ見学が始まりました。
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