この頃、夫は、なんだか、とっても「いい感じ」だ。
夕方、部屋に着いたときは、しかめっ面だった。
点いていたTVを消して、エアコンも消して、窓を開けてみると、涼しい風が、さーっと吹き込んできた。
さわやかでいい感じだ。
夕食を食べ始めると、目が開いてきた。
このパターンが多い。
明日から、また母の所へ行くので、夫にもちゃんと話しておく。
おばあちゃんの所へ行って、いっぱいお手伝いしてくるね。
おばあちゃんには、散々お世話になったから、できる限りご恩返ししなくちゃね。
お父さんは、ここでお留守番、メグちゃんは息子の所でお留守番、
二人ともお利口にしててくれるから、安心して行って来れるわ。
行って来るね。いい?夫は、ちゃんと頷いてくれた。
お父さんが、おばあちゃんに「ありがとう」って言ってたよ、って言っておくね。いい?夫は、また頷く。
どうも、私の話を理解している様に思えてならない。
自分からは、何一つ話すことは無く、意思を伝える術はない。
12年分萎縮している脳は、恐らくそんなに考えたり、理解したり、と言う作業は出来ていないと思う。
だけど、何だか、不思議に、夫は何もかも分かってるんだ、と思える時がある。
いや、何もかも分かっている、と言うのではなくて、
つまり、言葉で理解するのではなく、
私の言葉が、暗号とか、記号とか、音符とか・・・・そんな物に変換されて、夫の頭に流れてゆく、
いやいや、萎縮した夫の脳は、現代医学では解明できない逆進化を遂げて、私そのものを丸ごと感じ取る新たな能力が生まれた・・・
そんな訳はないか・・・。
まあ、何でもいい。
夫は、とにかくいい感じなのだから、それで良い。
デザートにメロンを食べて、食べ終わってもまだ目が開いている。
8時を過ぎたので帰らなくてはならない。
リクライニングを倒して、TVを消してCDをかける。
「ブルーシャトー」が流れてくると、腕組みしている手の先が動く。
ちゃんと聞いているんだな。
じゃあ、明日から行って来るね。お休み、バイバイ夫は、本当に良い顔で、私を見ている。
バイバイ、と立ち去って、フェイントでまた戻ってみる。
また、来たよ。良い顔で笑ってくれる。
そうなると、何回も何回も繰返したくなる。
何度繰返しても、良い表情を見せてくれる。
そっと立ち去ろうとすると、顔は動かないのに、視線だけが私を追ってくる。
立ち去りがたい。
とは言え、いつまでも子供みたいな遊びをしている訳にはいかないので、後ろ髪を引かれつつ部屋を後にする。
夫は、私が戻ってこなくても、何も思わないだろう。
いや、
もしかしたら、「やっと帰ったか、相手するのも大変だ」などと言う記号が頭の中を走っていたかもしれない。

お留守番よろしくね♪
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