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いつでも里親募集中

「いかない。そんなとこいかない。」

当日のヒロくんの言葉は、予想通りでしたが、さあ、困った。 順調に予約を入れてしまったものの、現実に○○市のSクリニックまで辿り着くには、沢山の困難を伴うと言う事に、私は後から気が付きました。


二車線以上ある都会の道は、もう何年も運転したことのない私に変わって、長男のケンを運転手兼介護助手として確保出来たのはラッキーでした。

そして、出来るだけ迷う事無く行ける様に、ナビ付きの車で行こうと言う事になったのですが、我が家にあるナビ付き車と言えば、配達用のハイエースだけです。

乗り心地はかなり悪いけど、仕方が無い。

前日、Yさんからヒロくんに、「ヒロさんもこのままじゃしんどいでしょう。良い先生が居られるから、ちょっと遠いけど、明日奥さんと一緒に行って来て下さいね。」と話をしてもらって、ヒロくんは「わかった。」と答えたそうです。

そして、その日の夜も、「明日は、Yさんが紹介してくれた病院に行くからね。」と、念を押して、確かにヒロくんは「わかった。」と答えたのです。


当たり前と言えば当たり前なのですが、当日の朝になると、ヒロくんは前日の会話などすっかり忘れて「そんなとこいかない。」と言って、ベットに横になり精一杯の抵抗をしてしまいました。

知らない病院、なんて行きたくないに決まっています。私だって、行かないで済むものなら行きたくない。

ヒロくんが嫌がっていることを言い訳にして、やっぱり止めよう、キャンセルのTELを入れよう、と何度思った事か・・・・・・


でも、やめてどうする?


やっぱり、行かなきゃ。


私「そう、行かないのね。分かった。でも、予約を入れてしまったから、私は行ってくるから。一人で留守番できる?」

ヒロくん「さあ。」

私「じゃあ、途中で嫌だったら帰るから、とにかく一緒に行こうよ。」

こうして、ヒロくんと、万一に備えての着替えなどが入ってパンパンに膨らんだバッグは、ハイエースの後部座席に無事に収まりました。

出発!7月29日朝8時16分です。


予想通りに、いえ、予想を遥かに上回って、走り出して直ぐにヒロくんは、不機嫌をもろに表現し始めました。

人間の快適さより荷物優先のハイエースの座席は、リクライニングもなく、堅くて一直線のシートです。すわり心地は良くありません。

でも、不機嫌の理由は、そんな事ではなく、家からどんどん遠ざかって行く事への本能的な拒否感なのだと思います。

コンビニのトイレに寄って見ましたが、オシッコは出ません。そうそう、アナフラニールを飲み始めてから、随分オシッコの出が悪くなっています。


まだ一時間も走っていないのに、ヒロくんの拒否は最高潮に達して、「あ~、もうだめだ。」と、車から降りる素振りを見せます。


やっぱり、無理。そんな遠いところへ連れて行くのは、無理。どんな名医さんに会えたとしても、これじゃあ、ヒロくんにとってマイナスでしかないわ。


私は、ハンドルを握るケンに向かって、「もう、帰ろうか。やっぱり、無理だわ。」と言ってみました。



じゃあ、止めてどうするの?と、心の奥底からもう一人の私が叫びます。


そう、やっぱり、行かなくちゃ。


その時、たまたま止まっていた信号の「××警察署」の文字が目に入りました。

あ、この近くにAさんの家がある。Aさんは、ヒロくんが元気だった頃、良く訪ねていた所で、ヒロくんの病気の事も知っている方です。

「Aさんの所に寄ってみようか?」私は、ヒロくんに言って見ました。これでも何も改善されなければ、本当に帰ろう。

ヒロくんは「Aさん」と言う言葉に反応しました。脈ありです。

「ねえ、Aさんの家に行って。」

ケンは、黙ってハンドルを回します。

Aさんの家に着いて、念のためトイレをお借りしましたが、やっぱりオシッコは出ません。

お茶を出して下さろうとする奥様に、遠慮ではなくて辞退し、気を使ってぺちゃくちゃおしゃべりしてくださるAさんを前にすると、ヒロくんはほんの5分程で、帰りたい素振りを示しました。

ヒロくんは、ご機嫌が悪い時は、一つの事を長い時間(ヒロくんなりの長い時間と言う意味です)続ける事が出来ません。

「さあ、車に乗ろう。」これも気分転換になるはずです。

案の定、車に乗り込んだヒロくんは、ちょっとだけ落ち着いていました。これなら、何とかSクリニックまで行けるかもしれない。

でも、まだ道のりは半分にも達していません。また、気分の悪さが最高潮になる前に何か手を打たなくては。

そうだ、寝かせよう。

家に居る時にも、どうしようもなく落ち着かなくなった時は、ベッドで横になるとちょっとだけ落ち着く事が出来ます。

これには、ハイエースの長い座席が役に立ちます。私は、座席から落ちそうになるくらい端に寄って、ヒロくんの枕として膝を提供しました。

そして、靴を脱がせて、私の膝枕で仰向けに寝かせました。

「ほら、こうしたら楽でしょう。ゆっくり寝て行こうね。」幼子に語りかけるように言うと、ヒロくんは、目をじっと閉じたまま、おとなしくなりました。

今のうちだ!

この状態で出来るだけ距離を稼ごう。急げ、ケン!

とは言うものの、いつも必ず渋滞しているらしいこの道は、この日もやはり沢山の車でごった返して、なかなか前に進んでくれません。

車が止まると、「はやくして。」と、私の膝の上から声がかかります。

「分かってる。でも、今渋滞してるからね。」

「ねえ、はやく。」

「今ね、信号が赤なの。赤で走ったらダメでしょう。青になるまで待ってね。ほら、青になったよ。」

こんな会話をしているうちに、私は、遥か昔の記憶が蘇ってきました。

子供たちが小さかった頃、何処かへ遊びに出かけて、渋滞にはまると、ちょうど今と同じ様な会話をしたものでした。

何とか機嫌をとりながら、目的地に着くことに一生懸命だった若かったヒロくんと私。

今、同じ会話がなされていて、じゃべっている私のポジションは変わらないのに、かつて私が語りかけていた小さな息子がハンドルを握り、逞しくハンドルを握って何処にでも連れて行ってくれたあの頼りになったお父さんが・・・・・・・今は私の膝の上・・・・・・





こんな思いを抱いているうちに、Sクリニックの看板が見えました。砂漠の中のオアシスのごとくです。

良かった、何とか・・・・辿り着いた。10時50分。予約時間の10分前です。

2時間34分、まるで過酷なラリーを走り切った様に、私はぐったりと疲れ切ってしまいました。


とにかく・・・・・辿り着いた。良かった。本当に、良かった。

疲れと同時に、半分だけやりきった充足を感じながら、車から降りました。



でも・・・・・




過酷なラリーの続きはすぐに始まったのです。




続く・・


















コメント

手に取るようにわかります

認知症の人にとって、はじめてのところ、しかも遠方は不安感が大きいですね。

Sクリニックまでなんとかたどりつけましたが、受診までの道のりも、帰途も、大変だっただろうと想像できます。

無事に受診できて、明るい展望が開けていますように!

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