映画のタイトルではなくて、ヒロくんが私のそばから一時たりとも離れない連続最長時間です。
夕方4時にデイから帰ってきて、次の日がお休み、その次の日の朝10時にお迎えが来るまでの時間です。
このところ、すっかり食欲は元に戻って、命の危機が(多分)過ぎ去った安堵を覚えます。
人間、いえ、私と言う人間は、なんて身勝手なんだろうと思います。
「死」が目の前にあるときは、何としてでも生きてさえいてくれれば、と切に願い、それが本心である事には疑念を挟む余地などないのですが、その「死」がちょっと遠のいて、日々の「現実」に追われる様になると、「生きてさえいれば」と言う謙虚な思いはどこへやら、「あ~、やっぱり疲れるわ・・・」と言う、より現実的な思いに囚われてしまうのです。
嫌な私。
半年ほど前までは、お休みの日にはそれなりにメニューがありました。
お買い物も、一番人気のダイエーさんの他にも、コープ、サティ、ユニクロ・・・・etc・・・・
外食に出かけるお店も、散歩コースも沢山ありました。お気に入りのDVDをつければ、2時間は時間が稼げます。
会社の休憩時間に、皆と一緒にお茶を飲むこともありました。
その日の気分によって、いくつかを組み合わせれば、それなりに一日が過ぎてゆきました。
ところが、最近のヒロくんは、あまり外へ出たがりません。あんなに外出好きだったのに・・・・・
急激な体重の減少による、体力の低下が原因ならば、食欲が戻った今、今後体重が増えて体力が戻れば、また以前のようにあちこちへ出かけられるかも・・・・と、言う希望がないではありません。
でも、がっかりするのは嫌なので、そんな思いは、頭から追い出すようにしています。いつだって、「今」が一番良い状態だと思っていれば、少なくとも期待が裏切られることはないからです。
嬉しい事には、食欲が戻ったことと同時に、精神的にも穏やかになってきた気がします。これは、デイでも同じ事を言われるので、私だけの欲目ではないと思われます。
とは言うものの、落ち着かずに家の中をうろうろしたり、どうしたらいいか分からない病が治るわけはありませんが、それでも、あの・・・・眉間にしわを寄せた苦悩の表情がほとんど見られなくなりました。
そして、じっと落ち着いて目を閉じて、お気に入りのロッキングチェアに座っている時間が増えてきました。
理由は分かりません。理由を探るのも怖いので、ただ目の前の良い状態に感謝するだけにしています。
そんな感じで、最近の42時間は家の中で過ごす事が多くなりました。
じっと座っていることに飽きてきた頃、「ドライブでも行く?」と誘ってみても、「いい」と言う返事が返って来たり、気が向いて出かけても、15分ほど走った頃には、疲れた、早く帰りたい、と言う気配が漂います。
買い物も、ダイエーさん専門となりました。それも、「買い物に行く」と言う行為があって、「店内を歩く」と言う行為を済ませると「早く帰りたい」に繋がるので、ゆっくりとショッピングを楽しむ、と言う感じではありません。
たまに、お気に入りのブルー系商品を手に取ったりすると、私は嬉しくて仕方がありません。「欲しい物があったら言ってね。」なんて、優しさ全開です。
メグちゃんのお散歩にもあまり行かなくなってしまいました。たまに一緒に行く時は、ほんの家の周辺だけです。
あんなに笑ってくれたバカ殿様のDVDにも、興味を示さなくなりました。
一緒に過ごす42時間の間に、私が一人になれるのは、トイレに入るときとお風呂に入るときだけです。
調子良い眠りが訪れると、夜リビングでTVを見たり、PCを開いたりする時間が取れる事もあります。
でも、大抵は1~2時間で起きてくるので、そんな時は、私もさっさと眠りにつきます。
以前、TVで、荒木由美子さんが、認知症の義母さんといつもいつも手をつないでいなくてはならない、トイレに入る時も、すぐそこ、に義母さんがいる、と言う話をされていました。
まだまだヒロくんの状態は悪くなっていない時の事でしたが、「そんなになったら大変だわ。でも、いつかなりそう・・・」と、漠然と思った記憶があります。
今、ヒロくんは、手こそ繋がなくてもいいものの、私が視界に入っていないと不安になります。
朝、洗面所で顔を洗って、振り向くと、狭い入り口でヒロくんがじっと立っています。
洗濯物を片付けに、寝室へ行くと、帰りには狭い廊下で私を追ってきたヒロくんと出くわします。
人が来て、ちょっとだけ外へ出ると、スリッパのまま追ってきます。
母の姿を追う幼子のように、いつもいつも私の姿を探しています。
いつも、いつも・・・・・・・
以上、ヒロくんと私の42時間の過ごし方でした。
そういうレベルになってこられたのでしょうか。
「生そのものへの不安感」だと私は感じました。
認知症という病は、本人にも、家族にもつらいつらい病です。
ただ、こういう時期がどのくらい続くのか。
父は、こういうレベルの途中で亡くなっています。
母は、いきなりとんでもなく大変な状態になってしまいましたので、私は体験していないのですよ。
この時期をじょうずに乗り越えられますように祈っています。