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間違いなく呼吸が止まっていることを確認してから、H先生に電話を入れた。


5分ほど前に、呼吸が止まりました。


分かりました。30分ほどで行きます。


ここにも、夫が最期に見せてくれた気づかいがある。


先日の往診の時に、


もし、夜中に亡くなったら、朝になってから電話します。


朝は、外来の準備などで忙しいので、むしろ夜中の方が良いんですよ。


そうですか、でも、夜中にわざわざ来ていただくのも申し訳ないですから。


じゃあ、こうしましょう。とりあえず直ぐにお電話頂いて、いついけるかはその時に決めると言う事で良いでしょうか?


はい、じゃあ、そうしましょう。


この会話も聞いていたな。


私が先生に電話を入れたのは、外来の患者さんの診察をあと一人で終えると言う絶妙のタイミングだった。


とうとう・・・ですか。


先生は、そう言いながら入ってこられた。


はい、とうとう・・・・です。


私も、そう答えた。


先生は、聴診器を夫の胸に当てて、それから、小さなライトで瞳を照らし、


呼吸は確認できません。6時17分、ご臨終です。


深々と頭を下げられた。


私も、神妙に頭を下げたけど、TVでしか見たことのないやり取りのど真ん中に自分がいる事が、なんか変な感じだった。


夫の体はまだ温かく、本当に死んでますか?と聞きたくなる様な気分だったが、夫は間違いなく死んでしまったらしい。


先生に、呼吸の変化を伺っていて良かったです。それを聞いていなければ、呼吸がゆっくりになったのに気が付いたとしても、むしろ落ち着いたと思って、そのまま何処かへ行っていたかもしれません。そしたら、戻ったら死んでいた、と言うことになったと思います。


お話ししておいて良かったです。なかなか最期の瞬間に立ち会えるのはないですよ。


夜中だったら、私は隣の部屋で寝ていたし、最期のお見送りが出来て、本当に思い残すとこがないです。穏やかな最期でした。


6年前は、こんな穏やかな最期になるとは思えなかったですね。


はい、あの頃は、夫は苦しみでのたうち回って死んでいくしかないんだと決めつけていましたからね。本当に、こんなに穏やかな最期が迎えられて、こんな幸せはないです。



何もかも、夫が私にくれた奇跡の時間だった。


先生は、死亡診断書をその場で書かれた。


死因の欄は、「呼吸不全」となっていた。


本当に、とうとう・・・・この書類を受け取る時が来た。


先生には心からの感謝を述べて、お名残り惜しいけれど、お別れした。


いつか、私も看取っていただこう。





昼間来てもらったばかりのIさんも、再び直ぐに来て下さった。


あれから、早かったです。


そうでしたね。


身体は、昼間綺麗にしたばかりだったので、今度は頭を洗って下さった。


そして、昼間着せたばかりのシャツを脱がせて、夫はスーツに着替えネクタイを締めた。


私が大好きなスーツ姿の夫は、とても美しい。


大きく開いた口が嫌なので、Iさんにお願いすると、バスタオルをあごの下から頭の上まで巻いて、頭の上でひもで縛って、固まるまでそのままにしておけば良いとの事。


おたふく風邪みたいな顔になった夫を見て、何だか笑ってしまった。


ほんのちょっとだけ口は開いていて、白い歯が覗いて、笑っている様な表情に仕上がった。


気に入った。


翌朝、恐る恐るタオルを外してみると、もう口が開くことなく、夫はすっきりしたいい顔になった。





火葬の日まで、そのまま二日間、生きている時と同じ様に、ベッドで眠ってもらった。


メイクさんが、きれいにお化粧して下さった。


眉は整えられ、ほんのちょっとだけ開いていた口はしっかりと閉じられた。


ん?


何だか、晩年の映画俳優に見えなくもない。


ちょっと笑ってしまった。


火葬の前日、見納めだと思うと、冷たくなった夫の姿が、愛おしかった。


ほんの二日前まで、布団の中に手を入れれば、その温かさに癒されたのに、今はもう、氷の様に冷たくなった夫しかいない。


それでも、そこに形がある。


この形も、明日になればなくなってしまうんだと思うと、ちょっと淋しさを感じた。


メグちゃんは、何も気が付いていないのだろう、いつもと同じ様に、ぴょんとベッドに飛び乗って、息をしていない夫の足元のふかふかの布団で眠っている。


明日から、急に淋しくなるのを君は知らないんだね。






そして、



11月1日、さわやかな秋晴れの中、夫は天に昇って行った。


夫の新たな旅立ちにふさわしい、晴れやかな日だった。


完璧なシナリオだ。


病気になって家族を守れなくなったと思っていた夫だったけれど、実は、夫によって、私たちは守られていたと言うことが、最後になって気が付いた。


夫のシナリオには、最後のおまけがあったのだ。














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