最初に、息子が「見知らぬ男」になったのは、いつ頃だっただろうか。
あんなに可愛がっていた息子が、「見知らぬ男」に見えてしまう事など、想像だに出来なかったはずですが、現実は厳しく悲しく、それでもその現実を受け入れる以外に生きる道がないのが、今の我が家です。
いつ、どんな風に、息子が「見知らぬ男」に変わって行ったのか、それは私には分かりません。
気が付くと、息子がいると不穏になるので、もしかしたら、もう分かっていないのかと、愕然としたものでした。
そんな時期も、いつの間にか過ぎ去り、息子が居るからと言って不穏になる事が無くなっていました。
病の進行のおかげかもしれません。
ところが、最近、夫は再び、「見知らぬ男」の存在が気に食わなくなってきた様なのです。
明らかに、嫌っているのが分かります。
私と二人で穏やかに過ごしている時に、息子が帰ってくると、急に顔が曇ります。
眉間に皺が浮き上がり、たまには、私に向かって「こいつはだれだ?」と言う目配せをする事もありました。
可愛そうな夫。
可愛そうな息子。
お父さんは優しかった。
いっぱい遊んでくれた。
山に連れて行ってくれた。
海にも連れて行ってくれた。
バイクの後ろにも乗せてくれた。
落っこちないようにしっかりとつかまっていたおとうさんの背中は、とっても大きかった。
始めたばかりのスキーなのに、お父さんは上級者コースに連れて行くので、怖かった。
思い出は山ほどある。
だから・・・余計に悲しい。
あんなに優しかった父なのに、息子が分からなくなる日が来るなんて・・・・・
今日もまた、息子が戻ってくると、夫は急に不穏になりました。
もともと、朝からかなりご機嫌斜めで、デイでも大荒れに荒れたらしい不穏極まりない一日だったのです。
でも、夕方家に戻ってくると、直ぐに落ち着きを取り戻したので、私はそこからいつも通りの夜が始まると思っていました。
また今日も、「志村さん」に笑わせてもらおうと思っていました。
ところが、夕方、「見知らぬ男」の帰宅により、夫は再び不穏に陥ったのです。
一緒に夕食を食べることにしましたが、夫は座る事が出来ずに、うろうろしながら私を標的に、押したり突いたりしてきます。
こう言う時は逃げるが勝ち。
過去に学んだ経験から、私はメグちゃんを連れて二階に避難しました。
階下に残されたのは、夫と、「見知らぬ男」の二人です。
どうなろうと、もう知らん。
知らん、と決め込んだものの、私は階下の気配をじっと耳で観察していました。
ぼそぼそと声が聞えて来ました。
ご飯食べたの?
食べないの?
はい、これ、食べなよ。
ここに座って。
お父さん、海老好きでしょう。
少ししてから階下に降りて見ると、夫は大人しく「見知らぬ男」の隣に座って、一緒に夕食を食べていました。
????????
分からなくなりました。
夫は「見知らぬ男」を避けていたのではなかったのか?
父と息子
何なんだ?
それとも何か通じるものを感じたのか。
はたまた・・・奥様がいないと嫉妬せずに済むのか・・
いろんな可能性がありますが、
ここは男同士、任せておくのがいいのでしょう!
息子さんの穏やかな空気もよかったのかもしれませんね。
でも他人だと思っていたらそれはそれで、ヒロくんさんは緊張しているということでしょう。
謎です。