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いつでも里親募集中

そろそろ、入院の日の朝、夫から貰ったプレゼントの話をしなくてはなりません。

前日の夜、とても穏やかに眠った夫は、朝6時に目を覚ました。


何時も通り、トイレに連れてゆこう。


「何時も通り」の朝も、今日が最後だ。


ところが夫は、トイレに行く事を拒否しました。


決して荒れている訳ではなかったのに、ただ、トイレに行く事を否定しました。


まいいか、もう少し経ってからまたやってみよう。


私は、もう一度メグちゃんが寝ている布団にもぐりこみました。


夫は、寝室とリビングを行ったり来たりうろうろと歩き回っています。


時間にしたら、10分位でしょうか。


嫌な予感がしたのと、芳しい香りが漂ってきのが同時でした。


私は、あわてて飛び起きました。


旅立ちの朝に・・・・これ?


今まで、滅多になかったの粗相です。


飛び起きた私が目にしたのは、悲劇的な広がりでした。


ボクサータイプのパンツを穿いている夫のズボンの裾からこぼれ落ちた、大量のが、まず、リビングのテーブルの近くに、ドーンと存在していました。


それらは、しっかりと踏みつけられており、その足で歩き回った夫の軌跡を見事に描いています。


尚且つ、パンツの中にあった残骸も、あちこちに落ちています。


リビング、寝室、至るところに、広がっている悲劇は、私の長い介護生活の中で、ナンバーワンです。


よりによって、入院の朝に?


おまけに夫の手にも物は付いており、その手で彼が触った所にも、悲劇の広がりが見えます。






さあ、大変。


どうしよう?


とにかく、夫を洗う所から始めないと。


私は、出来るだけ優しく、「きれいにしようね。」と言って、夫を風呂場に連れて行こうとしました。


ところが、彼はその時、既にフランケンに変身していたのです。


「なにをいうんだ!」と言う風な事を口走って、彼は私の体を押しました。


私のパジャマは、夫の色に染まりました。


これはもう、操縦不能です。


仕方が無い、落ちている物の片づけからするか。


と思ったものの、あまりの悲劇の広がりに、何をどうしたらいいのか頭が働きません。


床の上には、私があわてて取り出したティッシュや、ごみ袋や、トイレクイックルや、ウエットティッシュや、メグちゃんのオシッコシートや、使い捨て手袋や、果ては台所のキッチンペーパーまでが夫のと共に散乱しています。


騒ぎで目を覚ました息子が階段の上から顔を出しました。


私は、助けを求めて言いました。


「ねえ、大変なの。お父さんが踏みつけて歩いて、大変なの。どうしよう?」


やはり、騒ぎを聞きつけたかどうか分かりませんが、メグちゃんが、寝室からちょこちょこと歩いて来ました。


大変だ、メグちゃんも悲劇を広げてしまう。


私は、急いでメグちゃんを抱き上げて、下駄箱の上に乗せました。


この高さなら、飛び降りる事はないだろう。




この惨劇に、息子も初めはどうしたらいいのか分からないのは、私と同じでしたが、


「とにかく、寝室に閉じ込めたら?」


彼が提唱する、いつものやり方です。


それでも、私は何とか夫を風呂場に連れてゆけないかと思って、何回か話しかけてみましたが、その度に、彼の汚れた手によって、私のパジャマのシミが増えてゆくだけでした。


夫が寝室に入ったので、もう一度、私は、話しかけてみました。


でも、無駄でした。


フランケン度は益々酷くなり、私は壁際に追い詰められました。


入口から息子が、「さっと逃げておいでよ」と呼んでいます。


老いては子に従え。


私は、夫をかわして部屋から逃げ出しました。


すかさず、息子が寝室のドアを閉めました。


これで、これ以上の被害は寝室に限定されます。


寝室の中から、時々大きな声と大きな音が聞こえてきます。








私と息子は、目の前の出来ることから始めました。


とにかく、リビングに散乱しているを何とかしないと。


風薫る爽やかな5月の朝、私と息子は、芳しい香りの中で、夫が、そして父親が、残して行ったの片づけを始めました。


息子が言いました。


「最高のタイミングだ。これが明日からも続くと思ったら、とてもやってられないけど、今日、入院すると分かっているから出来る。」


そう言う彼が、ついさっき、父親に対して切れかかったのを、私は気が付いていました。


発病してから今まで、どんなに酷い事をされても、いつも優しく接していてくれた息子の「限界」を見た気がしていました。





私も言いました。


「うん、本当に凄いタイミングだね。もし、今朝も穏やかで笑っていたりしたら、入院させるのに躊躇するかもしれないけど、これで心置きなく入院させられるわ。

お父さんって、凄いね。最後に、私たち家族の事を考えてくれたんだよ。やっぱり、お父さんは凄い!」



その後、私たちはあまり悲壮感無く夫のの片づけをしました。



そして、戦い済んだリビングで、コーヒーを飲みながら、何だかドラマみたいな幕切れに満足していました。




ただ・・・・・・



後一つ、片付けなければならないものがあります。


それは、塗れになっている夫、本人です。




汚物にまみれたままの旅立ちでは、あまりにも悲しい。


何とか、風呂場に連れてゆこうと思って、私は、時々、静かになった寝室をそっと覗いて、「お父さん」と呼びかけてみました。


でも、その声掛けがきっかけとなって、大人しくなっていた夫は、また混乱に陥るのです。


遅くとも10時には、出発しなくてはなりません。


初めは、そのうち落ち着いて、綺麗に出来るだろうと思っていた私も、時間が経つにつれ、だんだんと心配になって来ました。


どうしよう?


ハイエースの荷台に乗せて、そのまま連れてゆこうか?


今の精神状態だったら、乗せる事は出来ないよ。


ずるずると引っ張って行く。


そんな事、無理だよ。それに、無理やり乗せて連れて行けたとしても、このままじゃ、暴れるにきまってるから、そのまま拘束されて大変な事になるよ。

それにそのままオムツされてしまうだろうし。何とかして、穏やかなお父さんのままで入院してもらいたいよ



じゃあ、どうするの?


どうするのと聞かれて、私が思いつくたった一つの方法は、Nホームさんに助けを求めることでした。


もう、家ではどうにも出来ないから、助けて欲しい。


8時半になるのを待って、NホームさんにTELしました。


どうか、Yさんが居ますように。




はい、Nホームです。


その声は、残念ながらYさんではありませんでした。


Yさんの出勤時間は、9時頃だとの事。



でも、電話の声は、運良くそこに居たマドンナさんに代わってもらうことが出来ました。


私は、朝からの状況を話しました。


もう、どうしようもなくて、何とか助けていただけないかと思ってお電話しました。


いつもは、おっとりのんびりタイプのマドンナさんですが、そこからの行動は、びっくりするほど俊敏でした。


分かりました。今から直ぐに行きます。


今から、直ぐに来てくれるって・・・・何てありがたいんだろう。


マドンナさんの到着を今か今かと待っている私の耳には、寝室から、再び、混乱している夫の大きな声が聞えて来ました。


大丈夫だろうか?


いくらマドンナさんでも、こんなに混乱してるんじゃ、無理かもしれない。





15分程で、マドンナさんが到着しました。



地獄で仏です。



いつもより、ちょっと緊張気味の笑顔です。



私は、寝室のドアの前まで案内して、中はきっと塗れになっているだろうと思う事、夫の手にも付いているはずだからと、ざっと状況を説明しました。



彼女は、最初にお風呂の場所とシャワーの出し方などを確認してから、「少し時間を下さいね。」と言って、仕事に入りました。


私は、息を潜めて成り行きを耳だけで伺いました。


トントン


ドアをノックする音が聞え、「○○さん」と優しく呼びかける声が聞えて来ました。


そして、そのまま直ぐに、風呂場のドアが閉まる音が聞えました。


夫の荒れた声などは、何も聞えてきません。





約30分後、すっかり綺麗に洗ってもらい、着替えをした夫が、マドンナさんと一緒にリビングに現れました。


その顔は、つき物が落ちた様に、穏やかになっていました。


彼は、私を見て笑いかけ、手を取ってくれました。


良かったね。


心の底からそう思って言うと、夫もまた、


よかった


と、答えてくれました。


マドンナさんは、ニコニコしながら、「気持ちが悪かったんでしょう。」と言われました。


私には、まるで彼女が魔法使いの様に思えましたが、これぞ正にプロの仕事、介護のプロです。


以前、精神病院に勤めていたと言うマドンナさんは、


「最初の印象は大事です。絶対に穏やかな○○さんのままで入院して欲しいです。」


と言われました。


そして、


「昨日、最後の連絡帳に、また会いたいです、と書いたからかもしれません。電話がかかってきた時、呼ばれた、って思ったんです。」



いとも簡単に、私たちを地獄の底から救い出してくれたマドンナさん、Nホームさん、そして介護保険の制度、ありとあらゆる物に感謝したい思いでした。





香り高き寝室と、風呂場の掃除などは後回しにして、病院へ出かけなくてはならない時間が迫っていました。



すっかり綺麗になって、穏やかな表情の夫は、何時も通り大人しく車に乗って、当分帰ってこられない事を知ることも無く病院へ出発しました。







これが、入院の朝の夫からのプレゼントです。



めったに粗相が無かったのに、何故彼は入院の朝、ご機嫌が悪かったわけでもないのに、トイレに行くことを拒否して、あんなに酷い悲劇を起こしたのでしょうか?



私たち家族に、心の踏ん切りをつけて貰うための、渾身のプレゼントだったに違いない、と思うのです。









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