今日は、面会に行って正解だった。
ずっと笑顔無く、あまり表情も無い夫の顔を見るのは、実際のところ、かなりしんどい。
苦しみの表情も同時に消えたのだから、それで良い、めでたしめでたし、と、納得したかのように振舞っていても、本当のところ、そんなことで、良かったと思える訳はない。
このままずっと、夫が無表情の表情をまとい続けるなら、それはそれで仕方がない。
今までも、ずっとずっと、なんで?なぜ?と言う、天からの不条理に、結局は、「仕方がない」の言葉で自分の心を覆い隠して、生きて行くしかなかった。
そして、年月は、いつの間にかそれに慣れると言う、唯一の生きる術を与えてくれた。
何を言っても、何を喚いても、「仕方がない」に尽きた。
今日は、安心パンツをはいていた。
仕方がない、あんなプレゼントは誰も欲しくない。
離乳食みたいに、どろどろの食事。
仕方がない、誤嚥を防ぐためだもの。
そんな、安心パンツや安心食を、嫌がることも無く受け入れている夫の寛大さに感服して、私も、「仕方がない」を受け入れる事にした。
だけど、喜怒哀楽が消えてしまったあの表情なき表情を受け入れるには、まだまだ、まだまだ、時間が掛かりそうだった。
何を話しかけても、我関せず。
やや眼窩の窪んだあの顔は、嫌いだ。
でも、これもまた「仕方がない」と受け入れない限り、生きてゆく術はないのだろうと思っていた。
自分で看てあげられなくなって、病院に入れた、と言うことは、こう言う事なんだ。
荒れるより良い、暴れるより良い、眉間に皺の寄ったあの顔より良いではないか。
そう、心から思えるようになるまで、自分をだまし続けて行かなくてはならないだろうと思っていた。
面会に行っても、私が知る夫ではない夫に会うのは、気が重かった。
でも、やはり、私の夫は、その人しか居ない。
頭の中に、纏まらない想いが去来し、何をしていても夫の事が頭から消えない。
苦悩が無くなった代償として、自分ではない自分を、これから先、生きてゆかなくてはならない夫に、幸せはあるだろうか?
そして、永遠に答えの出ない疑問、何故?夫が、何故?あんなに良い人が、何故?こんな人生に、と言う不毛の思いに取り憑かれる。
朝からずっとそんな思いでいた午後3時。
今日は行かないつもりだったけど、突然、行こう、と決めた。
今日は、事務員のOさんがお休みだから、出かけるわけには行かないと思っていたけど、急に、行く、と決めた。
外回りの仕事ばかりで、殆ど家にいない長男が、たまたま居たので、「病院行ってくる。」と言い置いて出かけることにした。
ゆっくりとしゃべる時間が取れない彼はまだ、あの朝のプレゼントの事も知らない。
まあいい。これも役割分担だ。
一人でハンドルを握る車中は、気が重かった。
一生懸命、現状を受け入れている様に、自分をだます方法を模索していたりした。
3時半。
この時間に来たのは初めてだ。
いつもの様に、手を洗って待つ。
ナースステーションの向こう側に見える、夫の個室のドアの、すりガラスに影が映っている。
夫が、ドアに向かって立っている影を始めて見た。
ドアの隅だけ、透明ガラスになっている。
彼は、一生懸命そこから外を見ようとしている。
出たいんだ。
夫の影が不憫だった。
たまたまM先生が居られた。
「大分、落ち着いて来ましたよ。ホールに出る時間も、少しずつ長くなっています。」
良かった。
連れて来られた夫は、今日は良い顔をしていた。
確実に、私の夫の顔をしていた。
でも、私が妻で、momoと言う名前だと言う事は、分かっていないと思う。
それでもいい。
私が見て、私の夫だと思えるだけで、それでいい。
一緒に座って、持ってきたおせんべいを美味しそうに食べた。
水筒に入れたポカリも、ごくごくと飲んでくれた。
今日は、言葉がでる。
うん
そう
いいよ
こんな短い言葉でも、小躍りしたいくらい嬉しい。
そして、夫は、おせんべいを何枚か食べた後、小さな欠片を見て、
いいよ
と言った。
どう言う意味の「いいよ」なのかは、直ぐに分かった。
私が食べても「いいよ」なのだ。
私にも、「食べなよ」と、勧めてくれているのだ。
いつも通りの優しさだ。
元気だった時と同じ気遣いをしてくれたのだ。
食べてもいいの?
うん
ありがと
私は、その小さな欠片を夫の手に持たせた。
じゃあ、一緒に食べようね。
今日は、お父さんが元気だから嬉しいわ。
来て良かった。仕事サボってきたんだよ。
あ~、今日は、本当に嬉しい。
どこまで分かるか分からないままに、夫に話しかけた。
そして、
今度、子供たち連れてくるね。AとTとRとSと・・・・
と、息子たちの名前を、ゆっくりはっきりと言ったとき、
へ・へ・へ・・・
夫が笑った。
ほんの2秒か3秒だったが、確かに笑ってくれた。
夫は、まだ息子たちの名前を覚えている。
もしかしたら、私、今、幸せかも。
コメント
( ´艸`)
嬉しいです
「いいよ」
嬉しい。
momoさんはブログに書かれてる。
私はブログがなかったので娘たちに電話したっけ。
いい日でしたね。
ありがとうございます。喜びが4倍になりました。
喜びが壊れるのが怖いので、この二日面会に行きませんでした。
明日、行って見ます。おせんべいとポカリを持って。
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