今日は夫の誕生日だ。 62歳。
息子が一緒に行くと言うので、出かけるのが遅くなった。
病棟に着いたのは6時過ぎ。
夕食の時間だ。
ガラス越しに、青いつなぎを着て歩いている夫の姿が目に入った。
他の人たちは、それぞれの椅子に座ってお食事中だった。
夫は、そのテーブルの間を一人で歩いている。
もう、食べ終わったのだろうか?
鍵を開けてくれた看護師さんが、何となく言いにくそうな感じをしている。
きっとまた、調子が悪くて荒れていたのかもしれない。
「調子悪いんですか?」と聞いてみた。
看護士さんは直ぐに頷いて、こう言った。
「はい、淋しいんでしょうか、歩きながら涙を流しているのです。傍に行くと手を取って歩き出します。
奥さんと息子さんが来られて、ほっとしました。」
その答えは、暴力を振るっていると聞かされるよりも、ずっとずっと重く圧し掛かってきた。
私は、「今日、誕生日なんです。」とだけ言って、座らせてもらった夫の傍に行った。
夫は夕食を食べはじめた。
持って行ったシュークリームも沢山食べた。
「今日はね、お父さんのお誕生日だよ。」
返事は無い。
食べ終わった夫は、じっと目を閉じた。
息子が、帰ろう、と言う。
もっと一緒に居たかったけど、帰って来た。
家にいる時、救いは無かった。
ならば、と、入院してみたけれど、そこにも救いはないのか。
62歳の誕生日。
こんなに悲しい8月4日は、初めてだ。
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