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いつでも里親募集中

百日紅

夫がニコニコしながら近づいて来た。



言葉も出た。



夢の話ではない。


現実だ。


但し、その現場に私はいなかった。


今日、面会に行って、鍵を開けてくれたのは、入院の時にお世話をしてくれた看護師Aさんだった。


病院には、一杯のスタッフさんがいるので、Aさんに会うことも稀た。


「お久しぶりです。」


Aさんがニコニコして言う。


Aさんは、とても親しみやすく、何でも聞ける雰囲気がある。


この所調子が良くないのが分かっていたが、聞いてみた。


「調子悪いですか?」


Aさんは、どんな風に調子が悪いかを話した後、こう付け加えてくれた。


「昨日の朝は、凄く調子が良くて、ニコニコしながら近づいてこられて、しゃべり掛けられたんですよ。

看護師の中には、御主人がしゃべるのを始めて聞いたと言う者もいました。

薬が効いたのかなと、喜んでいたのですが、今日はまたあまり良くありません。

でも、いつもいつも調子が悪いと言うわけではないのです。

調子が良い時を、ご家族に見せたいんですけどね。」




看護師さんとしては、せっかく入院したのだから、入院前よりも調子が良い状態を、家族に見てもらいたいと思うのだろう。


私だって、どんなに見たいことか。


でも、見られなかったけど、今日は、そんな話が聞けて嬉しかった。




夫は、何時も通り、おやつをあっと言う間に完食した後、歩き始めた。


いつもなら、そこで直ぐに帰ってくるのだけど、今日はいい話が聞けてちょっと気分が良かったので、歩いている夫の姿を眺めることにした。



夫は、廊下の端まで歩き、また戻り、途中の曲がり角を曲がり、また戻り、を繰り返している。


私は、看護ステーションのカウンターにもたれて、じっと見ていた。


廊下の奥から夫がこちらへ向かって歩いてくる。


近くなると私は手を振ってみる。


それに答えるかのように彼は手を伸ばす。


そのまま手を取って二人で歩き出す。


一緒に何往復も歩いた。


途中ですれ違う看護師さんたちは、ニコニコして「良かったね」と夫に声を掛けてくれる。


手を離して、夫が一人で歩き始める。


私は、再びカウンターにもたれて、見る側に回る。


「ちょっとぉ~、おねえさ~ん、トイレつれてって~」


「おねえさ~ん、といれつれてってぇ~」


この病棟ならではの、声が響いている。


再び、廊下の奥から夫が近づいて来る。


私は手を振る。


彼は、ちらっとこちらを見たが、そのまま素通りして、傍を歩いていたおばあちゃんに手を伸ばす。


おばあちゃんは知らん顔で歩き去る。




そろそろ帰ろうか。


もう一度、夫の手を取って、二人で廊下を散歩した。


突き当たりのガラス窓から、外が見える。


「お父さん、見てごらん、百日紅が咲いてるよ。きれいね。」


夫に、ピンクの花を見せてあげたかった。


我が家の庭に咲いているのと同じピンクの百日紅が満開だった。






帰らなくては。


夫を椅子に座らせた。


「今日はこれで帰るね。また来るからね。」


何だか、名残惜しくて、何時もは言わない台詞を言った。


ガラスのドアを出てそっと振り返ると、夫は、もう既にその椅子にはいなかった。


廊下のデート、何だか楽しかったな。







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