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秋空の奇跡

台風一過の晴天の一日、病院で秋のお祭りが行われた。


私が知らなかっただけかもしれないが、正直なところ、病院でこのようなイベントがあることに驚いた。


地元の中学生の吹奏楽や、フラダンス、太鼓演奏など、盛りだくさんのお楽しみが、病院の広場に据えられた舞台で披露された。


広場を囲むように屋台が並び、ラーメンやソフトクリーム、地元のお土産などが売られている。


大勢の人たちが楽しそうに過している様子は、ここが病院であることを忘れさせてくれる。





1時頃に病棟を出発するので、良かったら来て下さいと、お誘いを頂いた時、私は内心不安で一杯だった。


夫が、そんなにぎやかな雰囲気のところに出かけることは、もう無理だろうと思っていたからだ。


デイに通っていた時にも、太鼓の演奏会などでは、落ち着かなくなり、外に連れ出してもらっていたりもした。


雰囲気の違うところに出かけて楽しむことなど、もう無理だ。





でも、ここは病院。


沢山のプロの目がある。


いざとなれば何とでもなる。


手に負えなくなって、私が一人で困ることなどないはず。


そんな大きな安心感を持って、秋晴れの当日、次男と一緒に出かけた。





車を止めて、まず病棟の方へ歩いて行くと、車椅子を押した看護師さんたちが大勢、広場の方へ歩いているのが見える。


この病院に入院している患者さんたちを、無事に広場まで連れて行き、また、無事に病室へ連れ帰るのは、大変な気配りが必要だと思われる。


認知症病棟だけではなく、アルコール病棟や、精神病棟などに入院中の患者さんもおられる。


でも、職員さんたちは、そんな気苦労など誰一人顔に出さずに、楽しそうに笑いながら皆を誘導している。


大したもんだ。





病棟に着くと、夫は、ちょうど出発するところで、麦藁帽子を被って車椅子に座っていた。


息子が車椅子を押し、私は横を歩く。


青空。


降り注ぐ陽の光。


久しぶりの外の空気を、夫はどう感じているのだろうか。


中庭に出て、駐車場を横切り、広場に到着するまで、距離がある。


私は、夫の顔を見ながら歩いた。


とりあえずは、心配するような表情の変化はない。


広場には、沢山の人が集まっていた。


舞台が良く見える場所に、同じ病棟の人たちが一塊になっている。


私たちも、その中に加わった。


舞台では、子供たちの太鼓の演奏が行われていた。


大きな大きな音が響いている。


夫は大丈夫だろうか?


私は何度も彼の表情をちらちらと見た。


穏やかな顔をしている。


これなら上出来だ。


このイベントを、夫が楽しむことは出来ないだろうと思っていたけれど、こんなに穏やかな表情で居られるなら、100点満点だ。


連れ出したことがマイナスにならなければ、それでいい。


良かった。




夫の目は、舞台の方を見ている。


時々、遠くを指さすような仕草をする。


何か言いたいのだろうか?


何が言いたいのだろうか?


彼の頭の中では、何らかの思いがあるのに、それを言葉に変換するやり方を脳が忘れてしまったのだろうか?


それとも、頭の中で何らかの思いを纏める方法を忘れたのだろうか?


あるいは、私が想像する「頭の中の何らかのもの」など、もはや無いのか?


何もかも分からない。





まあ、いい。


この青空のもとで、2人揃って同じ時間を過ごしていると言う事実だけで、よい。


同じ空気を吸い、同じ物を見て、同じ音を聞いて・・・・


それだけで、心が躍るではないか。




いつもは、白衣を纏い、使命感に燃えている雰囲気の婦長さんも、今日は真っ赤なTシャツを着て、楽しそうに笑っている。


とても新鮮だ。




しばらくすると、夫は落ち着かなくなったのか、車椅子から立ち上がった。


お散歩しよう。


ぶつかりそうな程の人混みの中、手をつないで会場を何周か歩いた。


職員さんが気を利かして「帰りますか?」と聞いてくれたけど、私はもう少し居たいと思った。


次に、夫と青空のもとで過ごす日が、いつ来るか分からないから。


もしかしたら、これが最後かもしれないから。


会場には、昔を思い出してしまう様な懐かしい音楽が流れている。


まるで、私たち二人の趣味を知っているかの様な選曲だ。









しばらく歩いた後、夫は、再び車椅子に座る事が出来た。


そして、持って行ったジュースを、美味しそうに飲んだ。


屋外で飲むジュースは、きっといつもより美味しかっただろう。


もともと、アウトドアが大好きな夫だ。





舞台では、この日最後のグループの演奏が始まっていた。


リズム感の良い曲が、次々と流れて来る。






夫は、車椅子に座り、私は直ぐ脇にしゃがんで夫を見守る。


息子は、ふらふらと会場を散策している。





その時・・・・・



じっと前を向いていた夫が、私の方に顔を向けた。









笑っている。






嬉しそうに笑っている。






楽しそうに笑っている。




カメラを持った息子を目で探したが、戻って来ない。


奇跡の笑顔、しっかりと目に焼き付けておかなければ。


私が、夢でもいいから見たいと思っていた笑顔が、今、現実のものとして目の前にある。


夫は、音楽に合わせて手をたたき、柔らかい表情をしている。


看護師さんが来たので、「笑ってるんですよ!」と言うと、カメラを向けてくれた。


夫の笑顔と楽しそうな雰囲気に、看護師さんも驚いた様で、早速婦長さんに報告されていた。


そういえば、この病院の職員さんたちは、夫の笑顔を殆ど見た事がないのだろう。


明るくて、ひょうきんな性格を知らない。


優しくて、気遣いが抜群の夫の姿を知らない。


夫がどんなにいい男だったか、誰も知らないんだ・・・・






奇跡の様なお祭りは終わりを告げた。




病棟に戻った夫は、自分が楽しんだことなどすっかり忘れたように、いつもの気難しい夫に戻っていた。







コメント

いつも拝見しております。
思わず泣けてきてしまいました。

ご主人の笑顔がまた見られますように。
遠くからではありますが、祈っております。

lalaさん

ありがとうございます。

皆様から温かい応援を頂いて、本当に元気が出ます。

夫の笑顔は、あまり期待しないで待っている事にしますね。

また、お立ち寄りくださいね!

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