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いつでも里親募集中

想い

病棟に着いた時、ちょうどオムツ交換が始まる時間だった。





部屋には、要観察の患者さんが5人寝ている。


全員のを交換するので、時間がかかりますと言われ、廊下の椅子に座って待ってた。


自然に目に入って来るこの病棟の風景にも、随分慣れた。


と言っても、居心地が良いわけではない。




「おねえさん、おねえさん、おといれ、おといれ」と、聞きなれた声が聞える。


「せんせい、おねがいします、せんせい、せんせい」の声も、いつもと同じおばあさんだ。


「ちょっと、おねえさん、みてくださいよ、みてください」と言う、車椅子のおじいさんの声は、誰に向けられているのだろう。


すり足で歩いているおばあさんが、そばに寄って来た。


じっと立ち止まって、また歩き出す。


あっちへうろうろ、こっちへうろうろしながら、二人で会話しているおじいさんたち。


姿勢良くしっかりとした足取りで、病気とは分からない人も居る。


「面会」と書かれたバッチをつけているか居ないかの違いだ。





もし・・・・病気にならなければ・・・・


この方たちの人生も、全く違っていただろう。






「おねえさん、おといれ」のおばあさんの声が、また聞えて来た。


「おねえさん、おうちにかえりたいよ、おうちにかえりたいよぉ~」







日曜日の病院は、人手が少ない。


職員さんたちは、忙しそうに動いている。



5ヶ月居て、慣れたはずのそんな光景を目にしながらオムツ交換が終わるのを待っているうち、何だか無性に悲しくなって来た。






連れて帰りたい・・・・




せめて・・・・・・家で過させてあげたい。








オムツ交換が終わったとのことで、病室に入った。



熱が下がった夫は、一昨日から食事を取れるようになったそうで、点滴の管も無くなっていた。



ベッド脇には車椅子が置かれている。



「離床訓練」が始まったのだろう。



担当の若い男性看護師さんが話してくれた。



「昨日、車椅子に乗ってもらったのですが、目の前に来たおばあさんを手で押して、しりもちをつかせてしまいました。

今日は、日曜日で人が少ないので、万一を考えて、ベッドに寝てもらってます。明日から、また少しずつ起きられるようにして行くと思いますので、よろしくおねがいします。」



お兄さんは、申し訳なさそうに言われた。



夫のお腹の部分は、太いベルトで、両手は細いベルトで拘束されている。


やせ細った身体を縛り付けて置く理由を探すのは、きっと家族だからだろう。


「私がいる間だけ、これ、はずしてもらえませんか?」


「はい、もちろんです」


お兄さんは、急いで夫の両手のベルトを外し、お腹のベルトを一段階緩めてくれた。


「全部外すと、とっさの時に対応できませんから」


私が知らない夫の姿が、きっとあるのだろう。





夫は、穏やかな顔をしていた。


持って行ったコーヒー牛乳とプリンを美味しそうに食べた。


食べ終わった後、私は夫に一杯話しかけた。


裏山のケヤキが紅葉し始めてとても美しい事。


息子たちの事。


仕事の事。


一緒に共有した楽しかった事の数々・・・・・






二つ向こう側のベッドのおじいさんの声が聞える。


「おねえさん、おねえさん、ちょっとこれとってくれないかな」


おじいさんは、身体に着けられたチューブが気になるらしく、何度も動かしてしまい、その度に看護師さんが来て、直している。


何度直されても、気になる。


「これ、いやなんだ」


「おねえさん、おねえさん」


声は、どうやら私に向けられている様だ。


面会に通う内、私も要領を得た。


申し訳ないけど、聞えない振りをして、顔を向けない。


「おねえさん、おねえさん、なんでへんじしないんだ」


おじいさんの言う事が正しい。


呼びかけられても知らん振りする私は、後ろめたさに包まれ居心地が悪くなった。






やっぱり・・・・・






夫と一緒に、家で暮らしたい。
















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