夜が明けた。
夜中に何度も目を覚ましていた夫が、最終的に起きたのは5時頃だった。
起きた、と言う訳ではなく、起きようとしていたのでいつもの様に手を引いて起こそうとした。
だけど、彼は酷いしかめっ面になって起き上がることが出来ない。
あんなに直ぐに立ち上がってウロウロと歩いていたのに、何故か立ち上がることが出来ない。
足の甲の腫れは、若干引いているように見えるが、まだまだパンパンに膨らんでいる。
どうしようか?
このままずっと横になっている訳にもいかないと思い、何とかしてベッドに座る姿勢までもって行く事が出来た。
夫は、両手をベッドに着いて、立ち上がろうとしている。
でも、立てない。
おバカな私は、この時点では、昨日の転倒と関連付けることをしていなかった。
ベッドに座ったまま朝ごはんを食べさせた。
食欲は旺盛だ。
暫くすると、夫は、そのまま後ろに積んだ掛け布団にもたれかかり眠ってしまった。
少し額が熱い気がしたので、熱を測ってみると7度8分あった。
ん?風邪?
10時になってヘルパーさんが来た。
事の顛末を話して、せっかく眠っているからそのままにしてくださいとお願いして、私は仕事へ出かけた。
そして、決めていた通り、ワーカーのSさんに電話した。
運悪く?それとも運良く?Sさんは、午後からの出勤との事。
12時頃、お弁当を届けるために家に戻ると、夫はまだそのまま眠っていた。
今日は入浴させるつもりで、気合を入れて3人体制で来ていたヘルパーさんたちも手持ち無沙汰だ。
引き上げる前に、オムツだけは替えておいてもらう様お願いして、私はまた、事務所へ行った。
暫くしてヘルパーさんから電話が入った。
「オムツを替えたのですが、ほんの少し身体を動かすだけで、『いたい、いたい』と言われて、辛そうな顔をされます。
ケアマネIに相談したところ、訪問看護師さんを呼んだ方が良いのではないかと言いました。奥様に判断してもらってください、との事ですが、どうしましょうか?」
ここで初めて、私は、昨夜からの夫の極端までの不機嫌を転倒と結びつけることが出来たのだ。おそっ

えーー?まさか・・・骨折?

直ぐに家に戻って、訪問看護師さんに電話を入れた。
15分程で来てくれるとの事。
いつも思うが、介護保険の制度とは何てありがたいものだろう。
もし、一人だと・・泣くしかない。

看護師さんの到着を待っている間、すっかり忘れていたワーカーSさんから電話が入った。
朝の電話の時に、Sさんが来られたら電話が欲しいと伝えてあったのだ。
こうして私は、漸くSさんと話をする事が出来たのだが、話の内容は、思っていたのと全然違うことになった。
昨夜の顛末を話して、ギブアップ寸前まで来た事を伝えようと思っていたのに、もしかしたら骨折?疑惑を話すことになった。
万一、骨折していた時の大騒ぎを考えると、憂鬱だった。
救急車を呼ばなくてはならないんだろうか?
治療など出来るだろうか?
こんな時も、入院していれば、何も心配なかったのに、などと思った。
看護師さんは、直ぐに到着された。
逞しいおばちゃん看護師さんだ。
30分ほど夫の様子を看た後、こう言われた。
「自分で足を曲げたり伸ばしたりしておられるので、骨折ではないと思います。
今日は、少し蒸し熱いので、熱を出される方が多いのです。水分を補給して、部屋に風を通せば熱は下がります。」
良かった

こんなにほっとしたのは久しぶりだ。
締め切りだった窓を開けると、爽やかな風が通り抜けた。
そして、その後看護師さんと二人で夫にゼリーを2個食べさせることが出来た。
寝たままの夫は、それでも元気一杯だったので、私は彼の両手が看護師さんにパンチを食らわさないよう、しっかりと抑えていなくてはならなかった。
周りの方々に助けられて、今回も危機をすり抜けることが出来た。
Sさんが言われるには、3日歩いて、2日眠る、と言う人もいるとの事。
今週初めから殆ど歩き通していた夫は、きっと眠りのサイクルに入ったのだろう、と言う事にして、このまましばらく寝かせておくことにした。
なので、私は、今、随分楽をしている。
夫は、あのままずっと寝たままだけど、落ち着いた表情をしている。
不安に塗りたくられて歩き回っている時より、ずっと平和だ。
いっそこのまま寝たきりでも・・・と邪悪な考えが浮かんだりもする。
でも、食欲だけは衰えないので、きっとその内また復活するだろう。
そうするとまた私の戦争が始まる。
今は、しばしの休戦だ。
心も身体も休ませて、次なる戦いに備えるとしよう。

続く・・・
在宅介護の実態がよくわかるブログですね、
とくにワンちゃんの表情で家庭が理解できる?
うちにもミニダックス9歳がおり、24時間家族を監視しております。守り神みたいなもんですね。
大変なことは十分わかります。どうぞご自愛くださいね!