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急変⑥

先生は一旦、場を外された。

多分、白衣の偉い先生と相談するためだろう。


息子と二人残されて、あまりの急なこの事態をどうしたら良いのか、顔を見合わせた。


結果、私たちの気持ちは変わらない事を確認した。


つくづく、息子と一緒に来て良かったと思う。


私一人だったら、白い巨塔の雰囲気に飲まれて、「お任せしますので、よろしくお願いします。」と言っていた可能性が高い。


暫くして先生が戻ってきた。


今回は、単に肺炎の治療の事だけでなく、原疾患である認知症を長い間患って来られたと言う事情がある事も良く分かりました。

お気持ちは良く分かります。



分かる?


ほんとに、分かる?


夫が、私たち家族が、この10年、どんな思いを抱えてきたのか・・・・分かる、と言うのか・・・


なので、聞いて見た。


本当に、分かっていただけますか?



分かります。同じ様なご家族を、沢山見てきました。



若い医師は、きっぱりと答えた。








あちらで話しましょう。



先生は、別室に私たちを連れて行った。


そこでは、夫のCT画像がPCに浮かび上がっていた。


これが肺です。殆ど白くなってしまっています。そして、これが胸水です。こんなに沢山溜まっています。

命を助ける為に、呼吸器を装着して、治療したいと思いました。おそらくそれで行けるだろうと言う判断をしたからです。

だけど、ご家族のご意向でどうしても呼吸器はつけないと言う事でしたら、それは尊重します。その場合は、高濃度の酸素吸入と抗生剤の点滴を行います。

ただ、それで肺炎が重症化したり、敗血症になったりすることもご承知下さい。



先生の携帯電話が鳴った。


「はい、もうちょっと待ってください。ええ、まだです。はい、その位までは待ってください。」


先生の口調から、何処かの部屋で、夫の人工呼吸器を付ける手はずが整っていて、ゴーサインを今か今かと待っている白衣の先生の焦りが想像できた。


そして、板ばさみになっている目の前の若い医師の苦労も感じられた。



きっと命の時間が迫っているのだろう。



先生は、「ちょっと様子を見てきます。」と言って席を立たれた。



残された私と息子は、もう一度お互いの意思を確認した。


夫が死ぬかもしれない、


そう思うと、私は心が揺れる。


せっかく最高の治療が受けられる大学病院に搬送されたのに、みすみす命を落とす可能性の方を選択するのか?


でも、息子は言った。


いいよ、点滴と酸素だけで。これでお父さんが自力で回復したら、それでいいし、そうでなければそれが運命だ。




ああ・・・・・この子は何故、こんなにはっきりとした言葉を口に出来るのだろう。





私は、ケアマネさんに電話を入れなくてはならないことが気になっていた。


今夜も8時にオムツ替えに来て貰う事になっている。


救急車を待っている間に電話は入れたが、もしかしたら8時には家に帰っているかもしれないと、その時は思っていたのだ。


キャンセルの連絡をしなくては。


電話をかけに行こうと席を立った時、先生が入ってこられた。


私も、椅子に戻ろうとすると、息子が言った。


いいから、電話かけて来て。


息子は、最後の決断を先生に告げる役を買って出てくれたのだ。


電話をかけて、部屋に戻ると、先生が言った。


今、息子さんから話を聞きましたが・・


先生は、やはり配偶者である私に、最終確認をとらなくてはならないようだ。


はい、息子の言ったとおりで結構です。


言ってしまった。


これで、夫の治療方針が覆された。


万一の事があっても、もう仕方がない。


自分たちで決めたことだ。


今までに散々家族で話し合って、全員の意思を確認してきたことだ。


おそらく、夫が意思を言えたら、そう言うに決まっていると確信していることだ。


先生は、最後にこう言ってから、出て行った。


良く分かりました。ご家族のお気持ちは、充分に分かった上で、我々は出来る限りの事をします。





それから私たちは、長い時間を待つことになった。


病室に移された夫に面会できたのは、夜の9時半位だった。


夫は、身体のあちこちに管を着けられて眠っていた。


右の鼻には、痰を取る管。


左の鼻には、胃まで通して栄養を送り込む管。


腕にも、足にも、色んな飾り付けが施されている。


ベッド周りには、数字があれこれ表示されている機械が一杯。


何だか、現実じゃないみたいだ。


TVを見ているみたい。


人工呼吸器こそつけられなかったけれど、機械に囲まれて横たわっている夫をみて、私は、心の中で「ゴメンネ、ゴメンネ」と謝った。


こんな姿は望んでいないはずだ。


こんな姿、夫らしくない。


とは言え、夫は一命を取り留めた。


頭で考えている正論とは別に、私の心は、夫が生きている喜びで満たされた。





家に戻ったのは、10時を過ぎていた。


メグちゃんが、真っ暗な中で、お腹をすかせて待っている。


跳ねまわるメグちゃんを抱きしめて、ここでも「ごめんね、ごめんね」と謝っった。


メグちゃんの暖かい体温が、疲れきった身体を癒してくれる。


メグちゃんを抱きしめれば、私はいつでも復活するのだ。




息子と二人、帰りにコンビニで買って来たお弁当を味気なく食べて、とにかく眠ることにした。


明日から、体力勝負だ。






続く・・・・・



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