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誘惑

H先生の2度目の往診日だった。

どうですか?


はい、良く食べて、元気になりました。


元気が出すぎて困ってませんか?



あれ、H先生、どうして分かるんだろう?


確かに、夫は元気になった。


そして、元気が出すぎて、例のおこりんぼさんが時々復活しているのだ。


と言っても、数々の修羅場を潜り抜けてきた私にとっては、可愛いもんだ。


何より、動かない。


どんなに怒っても、危険は無い。


ささっと身をかわせば良いだけだ。


「そんなに怒ったら、食べさせてあげないよ。お父さんの命は、私にかかってるって知ってる?」


なんて、小さな声で言って、憂さ晴らしをすればそれでOK。


ちょうど一ヶ月前に、救急車で救命センターに運ばれた。


あの日の事を思うと、目の前の夫が、どんなに怒っていても、笑って済ませられるようになった。


まあまあ、坊や、元気になったこと・・・・って。






H先生が聞かれた。


今までどんな薬を飲んできたか分かりますか?


振り返ると、沢山の薬を試してきたと思う。


だけど、結局、夫に合う薬はなかった。


何を飲んでも、飲まなくても、良い時は良いし、ダメな時はダメだった。


結局、病気に打ち勝つこと、克服する事など、出来なかった。


夫の場合、萎縮した脳の部分が悪かったんだと思う。


今は、漸くそう思うことが出来るようになった。


だから、残された時間を、この病気に抗わずに生きてゆく事に、もう迷いは無かった。


今、夫は、何の薬も飲んでいない。


人工呼吸器は元より、点滴、胃ろう、オシッコの管、何一つ身体に纏っては居ない。


用意していた痰の吸引機も、たんすの飾りになっている。


私が「看取ろう」と、強い決意で連れて帰ってきたのだから、「生きる」為の小道具は必要なかったのだ。


夫は今、完全に自分の生命力だけで命を繋いでいる。


そして、こんなに元気になった。


元気が出すぎて、怒りのパワーも復活したけれど、以前よりは、ずっとずっと穏やかになった。


苦しみ、不安、戸惑い、さんざん、夫と私を苦しめてきたこれらの表情も、消えた。









メマリーは飲んだことありますか?


H先生の口から、忘れていた新薬の名前が出たので、ドキッとした。


どうせ、何を飲んでも効果がないと決め付けていたので、入院中、先生に聞いてみることもしなかったが、昨年出たメマリーについては、唯一気になっていた薬だった。


H先生は、言葉を続けた。


メマリーは、三分の一の人には効果があって、三分の一の人には、効果がないんです。そして、残りの三分の一の人は、悪化してしまうことがあります。

ただ、僕の感ですけど、効くんじゃないかと思うんですよ。

それに、歩いている時だと、悪化した場合大変ですが、幸か不幸か、今は歩けないので、危険はありません。

薬を飲み込むことも今なら出来るし、今なら試してみる事が出来るかなと思います。もちろん、無理にとは言いませんよ。





紆余曲折を経て、漸くここまでたどり着いて、素のままの夫の生命力が続くまで生きればそれで良いと、思っていたところに、この誘惑。



最期の診断書さえ書いてもらえれば良いと思って探してもらった往診医から、こんな提案がされるとは想像していなかった。



さて、どうしたもんか・・・・・・?






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