夫は、ベッドに横たわって、しかめっ面をしていた。
何がそんなに辛いのか・・・・
何もかもが辛いんだな。

Jさんが、車椅子

に座らせてくれようとしたけれど、あまり上手く行きそうにないので、やめた。
私から見れば、ベッドにいるよりも、ほんのちょっとの時間でも良いから、車椅子

に座ってくれたほうが、何となく嬉しい。
だけど、夫にとっては、そんな事、もはやどうでもいいのではないかと思った。
面会に来た奥さんの為に、いやいや車椅子

に移る事もないだろう。
だから、今日はベッドの背もたれを起こして、そのままティータイム

にした。
相変らずの食欲だ。

でも、今日の夫の頭の中は、深い霧がかかっているらしい。
眉間に皺が寄って、目を閉じている時間が長い。
「お父さん」と近くで呼びかけると、目を開けて、一瞬、現実に戻ってくる様に見える。
いろいろ話しかけても、あまり良い感じの反応はない。
ま、こんな日もあるだろう。
こんな時は、無理に話しかけないで、じっと手を握って傍に座っているだけにする。
たまに目が合うと、待ってましたとばかりに満面の笑顔

をプレゼントする。
夫は、このおばさんの笑い顔

を見て、何か感じてくれるのだろうか。
通りがかりの看護師さんが、「今日はどうですか?」と聞いてくれた。
あまり、ご機嫌良くないです。呼びかけると、ふっと気がついて、良いお返事を返してくれる事がありますよ。
○○さ~ん看護師さんは、夫の顔を覗きこんで呼びかけた。
夫は、目を開けて、看護師さんの顔を見た。
奥さんが来てくれて良かったですね。そうだよタイミングの良い答えに、笑えた。

私と看護師さんが、笑った

からかどうかは分からないけれど、夫も笑った。

今となっては、ほんの少し頬が緩んだだけで、「笑った」

と言う事になるのだが、その時の夫は、もっと「笑った」

確実に「笑った」

私と看護師さんは、びっくりして顔を見合わせて、「笑った!」と言って笑った。

ほんの数秒の事だったけど、嬉しかった。
○○さんが笑うと、奥さんが喜んでくれるよ。と、もう一度看護師さんが夫の顔を覗きこんで言ったくれたが、夫はもう笑ってくれなかった。
その後の、夫は、ずっと辛そうな顔

だった。
ほんの僅かでも、会話らしきものが出来ると、嬉しい。
笑顔

が見られると、もっと嬉しい。
だけど、
会話が出来なくてもいい、
笑顔がなくてもいい、
この苦しみ

から解放されるなら、何もかもなくなっても。
さあ、早くお家に帰ろう


メグちゃんが待ってるからね。


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