Vホームへ通うのにも、少しずつ慣れてきた。
何とかして早く到着する方法が無いだろうかと、あれこれ裏道など模索してみたけれど、結局、順調で40分と言う時間は変わらない。
Vホームを終の棲家にする気になれるかどうかの判断で、一番大きいのがこの距離だ。
面会は、週に一度、と決めて、他の6日間は、自分の生活を楽しむ、と言う割り切った考え方が出来るなら、何も問題は無い。
残念ながら、優柔不断な私は、いつもいつも夫の事が気になる。
結婚以来ずっと、発病直前まで、夫と言う大きな傘の下で、守られて生きてきた私は、実は、依頼心の塊なのである。
一人で逞しく生きてゆける類とは程遠く、いつも誰かに頼っていたいひ弱な人間なのだ。
配偶者がこの病気になると、男性は優しくなり、女性は強くなる、と聞いた事がある。
それは間違っていないようで、この10年で、私は本当に強くなったと思う。
でも、それは強くならざるを得ないから、仕方なく強くなった様に見えるだけで、依頼心だらけのひ弱な人間であると言う本質は、実は変わっていない様に思う。
昼間はまだいい。
仕事をしていると、あっと言う間に時間は過ぎて行く。
人の出入りも多いので、忙しくも楽しい。
夜。
一人になる。
息子たちは、夕方になると、それぞれの配偶者の元へ帰ってゆく。
だから、夜は、本当に、一人。
メグちゃんはいるけど、ちょっと違う。
(ゴメンネ、メグちゃん)
一人の生活は、とても楽だ。
自分の事だけをすれば良いと言うのは、長年、家族の世話ばかりして来た主婦にとっては、天国にも思える。
だけど・・・
一人は・・・・・淋しい。
一人は・・・・つまらない。
つくづく、夫に、傍に居て欲しいと思う。
今日の夫は、終始落ち着いた良い顔をしていた。
新しい環境に慣れてきたのだろうか。
たまたま、かもしれない。
2時40分頃、部屋に行ってみた時は、布団から大きく離れた部屋の隅に横たわっていた。
昼ごはんが終わると、一旦部屋に戻り布団に寝かされる。
病院の様に拘束はしないので、体の動きによってあちこちへ移動してしまう。
夜間は、大人しくしているらしいが、このお昼の休息タイムには、随分移動するらしい。
しかめっ面だった夫は、私が顔を見せると、寝たままの状態で、顔の表情を緩めてくれた。
二人の男性職員さんに車椅子に座らせてもらうと、私のほうへ手を伸ばしてきた。
今日は、調子が良いのかもしれない。
ホールへ行くと、お八つが用意されていた。
牛乳で作った白いゼリーに、生クリームが搾り出され、果物が乗っている。
凄く美味しそうだ。
今日は暖かいので、冷たい麦茶が付いている。
相変らず夫の食欲は素晴らしい。
ツバメの赤ちゃんのごとく、口を突き出して食べ物を要求するさまは、何とも笑える。
あっと言う間に、完食し、私が持って行った果物も、いくらでも欲しがる。
食べ終わると、少し廊下をお散歩してから部屋に戻った。
お気に入りのCDを掛けて、二人で寛ぐ。
調子が良いと、手拍子やおふざけが出る。
そんな夫と二人だけで過す時間は、私にとって至福のときである。
いつも調子が良い訳ではない。
眉間の皺が消えない日は、早々に帰ってくる。
安心して任せられる環境に夫を残して帰って来ることが出来る、と言う選択は捨てがたい。
反面、ずっと穏かな顔で居てくれた日には、
あ~、これなら、もう一度家で一緒に暮らせるではないか、と思う。
夜、PCに向かいながら、ふと目を遣ったその先に、車椅子に座っている夫の姿を想像してみたりする、一人ぼっちの私。
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