夫のご機嫌は相変らずだ。
面会環境が快適になって、すっかりご機嫌なのは、私とメグちゃんであって、当の夫は、相変らず霧深い世界で暮らしている。
環境の変化が、どれほど影響しているのか、今ひとつ良く分からない。
穏かな時間が増えたとも思えないし、かと言って、不穏状態が酷くなったとも言えない。
大きな声で怒って、私をがっかりさせる事もある反面、至福の時を与えてくれる時もある。
ただ、全体的に眺めると、随分病気が進んだ様な気がする。
言葉は、殆どない。
語りかけも、通じていると思える時は少ない。
ただ、ゼロではないが。
居場所は、車椅子か、布団か、どちらかだ。
どうやら、夫は、立ち上がることを忘れてしまった様だ。
昨年の10月22日に起きた
奇跡から、約半年、夫の脳は、立ち上がる事を忘れた。
体の機能的には、きっとまだ立って歩く、と言うことは可能だと思えるが、本人がその気にならない限り難しい。
でも、そんな事より何よりも、夫が普通の顔をしてくれていたら、それだけで良い。
穏かな顔なら、もっと良い。
奇跡的に頬が緩んだりしたら、最高だ。
もう、まともに笑ってくれる事はなくなった。
残念だけど、それだけ病気が進んだのだろう。
歩く事を忘れ、笑うことを忘れ・・・・・
次は、何を忘れるんだろうか。
それでも私は、すっかり忘れられてしまっているメグちゃんを連れて毎日夫に会いに行く。
夫が、メグちゃんに視線を合わせる事は、ない。
それでも私は、ご機嫌が悪くない時には、夫の膝にメグちゃんを乗せる。
夫は、膝の上のメグちゃんを触る事はしない。
お利口なメグちゃんは、膝の上でじっとしている。

今日の夫は、とても穏かだったので、私は夫の手を取って、メグちゃんの身体に触らせてみた。
夫の大きな手が、ふわふわのメグちゃんの背中に乗っている。
その手は、ぬくもりを感じているかの様に、じっとメグちゃんの背中に置かれたままだった。
そして、ほんの少しだけ手が動いた。
メグちゃん、お父さんだよ、って、本人が言う訳はないが、その動いた手に、私が勝手に解釈をつけた。
夫がメグちゃんを撫でた、って。
かなり強引なこじ付けだな・・・
ま、いいか。
夫の脳が、愛犬の温かさを認識したかどうかは疑問だけれど、
その手がメグちゃんのぬくもりを感じた事だけは事実だから。
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