友達が来た。
友達、と言っても、実は初めて出会う。
家族の誰かが介護が必要な生活になると、ともすれば孤独に陥りやすい。
協力者はそれなりに沢山居るけれど、現状が過酷であればあるほど、話したってどうせ分かってもらえない・・と、心を閉ざしてしまう事もある。
そんな中、かなりの部分を分かり合え、共感出来るのは、やはり、同じ様な経験をしている者同士だ。
そんな訳で、我が家より少し後ろを歩いておられるH子さんとは、初対面であるにも関わらず、話しが尽きる事無く、あっという間に時間が過ぎて行った。
帰路、一緒に夫のホームへ行った。
恐らく夫は、いつもの様にしかめっ面をしているに違いないので、そんな顔を見て頂くのは、気分も良くないだろうし、申し訳ないと思ったが、ありのままの現実を見せるのも先輩の努め(?)と、理屈を付けて夫の部屋へ行った。
布団に横たわっていた夫は、やはり眉間に少々の皺があった。
コールボタンを押して、職員さんを呼び、車椅子に移乗させてもらう事にして、その間に私は、ミニキッチンで、いつもの果物を準備していた。
すると、職員さんが言った。
「今日は、ずっと調子がいいですよ。話しかけるとお返事していただきました。」
珍しい事だ。
職員さんのほうから、こう言われたのは初めてだった。
その言葉通り、車椅子に移った夫の顔は、とても穏かで良い表情だった。
話しかけると、何らかの言葉が返って来たりする。
絶好調

お八つを食べたあと、H子さんをお見送りする為に、一緒に外へ出た。
陽射しが眩しい。
夫は、H子さんとお別れするまで、その穏かさを崩す事無く、良い顔のまま居てくれた。
その後、しばらく日光浴をした。
ズボンの裾を膝まで捲り上げて、5月の眩い光をたっぷりと浴びた。
夫の穏かさはそのまま暫く続いたが、お部屋に戻って、暫くすると、とうとう眉間の皺が復活してしまった。
でも、私は本当に満足だった。
お客様の前で、ずっと穏かで居てくれた夫に感謝一杯だった。
振り返れば、夫は元気だった頃は、人に対する気遣いが上手だった。
私の友達が遊びに来た時は、柔らかい笑顔で登場し、冗談で笑わせたりして、友達から、素敵なご主人ね、などと言われたものだった。
まさか、まさか、
夫に、「今日は、お友達と一緒に来たのよ。」と言ったから、得意だった気遣いをしてくれて、穏かな顔でいてくれた訳ではあるまい。
だけど・・・
そうではない、と否定するのも夫に悪い気がするし、
そうだ、
今度また、友達を連れて行って見よう。
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